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読み聞かせエピソード

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イラスト:ささきゆか

『えほんよんで』

「おとうさん、えほんよんで」
そう言って、玄関でネクタイを緩める父に毎晩おねだりした。
どんなに帰りが遅くなっても、疲れていても、
父は笑顔で「いいよ」と言って私のお気に入りの絵本を読んでくれた。

父の大きなあぐらの上が特等席。
「むかしむかし…」と読み始める父の落ち着いた低い声と、
ゆっくりとページをめくる音が耳に心地よかった。
私の保育園の入園祝いに父が買ってくれたお気に入りの絵本。
毎日毎日読み込まれてボロボロになった。
ページは破れ、背表紙がヨレヨレになっても
セロハンテープで何度も補強して、大事に大事に読んできた。

それから月日が経ち──
「おかあさん、えほんよんで」
その絵本の持ち主は、私の娘になった。
私が仕事でどんなに帰りが遅くなっても、
眠い目を擦りながら待っていてくれる娘。
背表紙がクタクタになって、
セロハンテープだらけの絵本を大事に胸に抱えて。

ちょこんと私の膝に座り、
目をきらきらと輝かせながら私の声に耳を傾ける。
その姿を見て私、分かったよ。
お父さん、こんな気持ちだったんだね。

栃木県 ペンネーム・春日まな

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